~メディアを味方につける話し方~
これは2019年7月19日に書いたものです。
ウィンブルドン・ジュニア日本人初
緑まぶしい芝のコートで試合を行うテニスのウィンブルドン。この地で16歳の日本の若者が初めてジュニア部門の頂点に立ちました。ウィンブルドン・ジュニア、男子シングルス優勝の快挙を成し遂げたのは望月慎太郎くん。3歳からテニスをはじめ、錦織選手と同じアメリカのIMGアカデミー(スポーツ総合マネジメント企業)でトレーニングを続けています。これまで大きな試合に出たことがない望月選手は知名度がありませんでした。しかし、今年最初に出た大会でベスト4入りします。それはテニス選手であるなら必ず出場を目指す4大大会の一つフレンチ・オープンのジュニアでした。そして、1か月後。同じく4大大会に数えられるロンドン近郊のウィンブルドンで初の優勝。輝かしい成績です。
優勝ともなると単独の記者会見があります。今回ははじめての会見でメディアを味方につけることができた彼の話し方を分析してみました。
16歳の優勝会見
緑と紫色のウィンブルドン色に塗られた縦のラインに、優勝トロフィーを重ねたデザインボードの前で望月選手ははじめての優勝会見に臨みました。会見では一種のテクニックが求められます。それゆえに練習する必要があります。IMGアカデミーでは一流選手を育てるにあたり、おそらくメディアトレーニングを選手に施していると考えられます。例えば最初は英語のインタビューでしたが、望月選手はキャスターのついた椅子で体を遊んでいるように動かしてしまっています。落ち着きがなく、カメラマン泣かせともいえる行動です。これはちょっといただけません。
しかしその後、日本語のインタビューになると手をテーブルの上に組み、ベテラン選手のような座り方と姿勢で語りました。姿勢がすっと伸びただけで余裕すら感じさせます。まさに『堂々とした優勝会見』とタイトルが付きそうなほどです。記者会見で記者の眼にどう映るか、それによってメディアにどう取り上げられるのか、取り上げられるとしたらどう料理された記事になるか、記事の書き方が違ってきます。インタビュー中にしっかりと修正できたのはメディアトレーニングの賜物ではないかと推測します。
コート上とのギャップ
望月選手はIMGの日本人トレーナーから「慎ちゃん」と呼ばれていると聞きました。そういえば“クレヨンしんちゃん”の「のはらしんのすけ」に声のトーンや語り口が似ている気がします。童顔のわりには太目の声、少し間延びするような話し方に親しみが湧きます。選手が普段どのような声で話すのか、話す時にどのような雰囲気をもっているのか。メディア側は、取材対象として会見に臨む選手を見ています。テニスをしている時とのギャップがあればあるほど興味が湧き、素材としての価値を見出すことになります。コート上とは違う優しい表情や柔らかい響きの声、そしてコメントが記者の心をつかみました。
冒頭のサプライズ
望月選手はインタビューの冒頭、「I am Shy」と話し始め、いきなり笑いを誘いました。あいさつや自分の名前ではなく、ある種言い訳に聞こえるような「自分は恥ずかしがり屋」ですと口を開いたのです。記者たちも面食らったのかもしれません。しかし、このサプライズで一気に場がなごみました。以前イチローさんの引退会見でも第一声の話をしたことがありますが、つかみと言う冒頭のやりとりはとても重要です。イチローさんは「こんなにいるの?びっくりするわ」と緊張感を和ませました。このテクニックは、わかっていてもなかなかできるものではありません。テニス界のレジェンドと言われるロジャー・フェデラー選手は「つかみ」の達人でもあります。ウィンブルドンで5時間近い決勝を戦って、敗れてしまった彼は、コートインタビューで”どんな試合だったか”と聞かれ、「とても長くて中身の濃い素晴らしい試合でした。できれば忘れたいぐらいです」と負けた悔しさを表して笑いを誘いました。「つかみ」をどうするか。これだけに何時間も費やす人もいれば、その場の雰囲気をすっとスピーチに取り入れられる人もいますが、自分に適した内容を常に考えることで、引き出しが増えていくでしょう。
ただ、私たちが決してしてはいけないのは言い訳をすることです。「急なご指名なので何も考えていないのですが…」「この場で話していいかわからないのですが…」「緊張するたちなのでうまく話せないのですが…」など日本人はまず言い訳から話はじめます。ハードルを低くしてよく見せようとする戦略だと思いますが、言い訳は逆効果です。話の信頼度が下がり、時間の無駄です。大事な第一声で言い訳するのはもったいないのです。
望月選手の「I am Shy」は、日本人にもわかる英語で、堂々と発せられると言い訳にはなりませんでした。記者にはサプライズと捉えられたのでした。
らしさにつながるエピソード
さて、「つかみ」と言えば「締め」です。望月選手は会見の締めでも楽しませてくれました。記者から”IMGアカデミーでテニスをしていない時は何をしているのですか。何が好きですか”と聞かれました。「うーん、そうですね。」と少し考えてから「YouTubeとか見たり、あと、よくないかもしれないですけど、お菓子は大好きなんでけっこう食べます。」と告白。”何系が好きですか”と続けて聞かれると「ま、チョコは大好きです。」とはにかみながら答えました。
プロになればこれから何年も活躍していくアスリートです。そんな将来性のある選手はきっと自分にも厳しく、テニス以外の時間も有効に使っているに違いないという私たちの予想を見事に外してくれました。それに対して「チョコが好き」とは、女の子のようなコメントです。しかも大勢で寄宿生活をしていて規律があるのではないか…という疑問も「よくないかもしれないけど」とさらりとかわしました。初々しさやあどけなさが残るほほえましいコメントでした。インタビュアーは人間味のある望月選手らしいエピソードを求めています。それを垣間見ることができ、一気にファンが増えた瞬間だったように思います。
望月選手は試合後、コート上でも「らしさ」を見せています。すでに報じられていますが、三方向にお辞儀をするという動作です。メディアがこれを逃すはずがありません。日本人らしい礼儀正しさと伝えました。計算したわけではなく自然にこのような行動や返答が出来る望月選手はメディアにとってはうれしい存在であり、メディアとうまくコミュニケーションを取れたと言えるでしょう。今後は、真摯に気持ちを表す、正確に振り返る、ポジティブに将来を話す。この3つのポイントに気をつけてインタビューのスキルを磨いてほしいと思います。活躍毎のインタビューを聞いて、成長を応援するのもファンとしては楽しみです。(了)















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