記者会見で使う言葉遣い

【記者会見で連発された言葉】

2018年、アマチュアボクシングの前会長山根明氏の元で様々な問題が明るみに出たことを覚えているでしょうか。助成金の不正流用、審判員の不正判定、組織や役員の意識や体制に問題があるとして世間を賑わしました。当時は山根会長の独特のキャラクターや風貌も相まって、会長を出迎える行列や会長が座る豪華な椅子、おもてなしリストなどが話題になりました。私はこうした疑惑とは別に注目していたことがありました。それは記者会見です。
会見は企業や個人が何かを説明する際に開きます。しかしこの時は、会見はネガティブな結果に終わることが多く、私は、そのような点が失敗につながるのか、どのような発言が会見を開く本来の意味とかけ離れてしまうのか知りたいと思っていました。
これまでも消費者の信頼を取り戻す説明どころか、信頼を失う事例が多くありました。例えば2007年に食品偽装事件を起こした大阪の料亭「船場吉兆」。ささやき女将の会見と言えば思い出す方も多いでしょう。また、2000年の雪印乳業集団食中毒事件での「私は寝ていないんだ」の逆切れ発言など、その後身を滅ぼすことになる人を何人も見てきました。何かを言うことは失敗につながるため、多くを語らないことがよしとされる風潮が構築されていました。そして、前述の日本ボクシング連盟の事件。会見では「わかりません」「記憶にありません」「そのようなつもりではありませんでした」との答えが頻発しました。

【メディアへの言い訳はNG】

ご存じのように会見での「わかりません」との言葉は無責任や責任逃れの意味で扱われます。また、「そのようなつもりはない」や「私の記憶にはない」などは直接の返答を避け、言い訳をしていると受け止められます。なぜなら、人は間違った時、自信がない時に言い訳をするからです。しかし言い訳は説明ではありません。事実を語らなかったり、明確に「そうです」と言えない時、なぜ言えないかを弁解してしまうのです。自己弁護は自分を何かから守ろうとする行動です。そしてメディア側は、「守る発言者」を求めていません。話し手の保身などは問題にしていないのです。「何かを隠そうとしている」その言い訳をさらに追及されるのがオチです。では、成功した会見は何がちがうのでしょうか。共感を生んだ会見はまちがいなく「わかりません」という言葉を使っていません。2018年のアメフト反則タックル問題で、一人メディアを前に答えた日大選手がよい例となりました。事実をありのままに話し、たとえ答えにくい質問であっても、答えられない理由を明確に話し、根拠を示して終始真摯な姿勢を貫いた会見によりメディアを味方につけることができたのです。

【マイナス要素を弱めるには】

このことからわかることは、隠すのではなく、オープンでいることが大切だということです。本当にわからない場合は答えようがありません。そのような場合は、「大変申し訳ないのですが・・・」、「繰り返して恐縮ですが・・・」などを付けます。わかりませんと言う前にクッションとなる言葉を付けると否定がやわらぎます。さらに否定語は「ん」で終わることが多いため、「ん」で終わらないようにするのも方法です。「わかりません」は「わかりかねます」。「できません」は「できかねます」と「ます」の形にするのです。形式ばってしまうのを避けたいなら、「わかりませんが、○○だと思います」と自分の意見を付け加えたり、「わかりませんが、○○ではどうでしょうか」と提案します。前向きの行動を加えることでマイナス要素を弱めることができます。そして、「なぜなら…」とその根拠を数字や経験などで示すことが出来れば、さらに合格度合いはあがります。
否定的な要素の言葉は友人や家族との会話なら問題なくても、ビジネスの場でも使っていると、周りからの評価をいつの間にか落としてしまう可能性がありますので気をつけたいところです。ところで日本ボクシング連盟は、組織改革を徹底的に行い、2023年公益社団法人として生まれ変わりました。ガバナンスの整備や役員選出方法も上場企業並みで女性の理事も増やしているそうです。一度落とした信頼から立ち直るには多くの時間がかかったと言えるでしょう。

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