想像力を失わせないために

ひとりでも楽しめるスポーツ

最近、外をランニングしている人を多くみかけるようになりました。コロナ禍前のレジャー白書2017(公益財団法人 日本生産性本部 余暇総研)によりますと、ジョギング・マラソン人口は2020万人。ウォーキング人口は3010万人おり、場所や相手を選ばない、一人でも楽しめる種目として根強い人気を集めているようです。ワイヤレスイヤホンの発達もあり、好きな音楽を聴きながら走る人が多いように思います。
テンポのよい音楽を聴くことはマイペースを維持することができ、無理なく走ることができます。好きな曲をあと1曲聞くためにもう少し走ろうと、モチベーションが上がる人もいるようです。音楽を聴くことはよい効果をもたらしていると言えるでしょう。「音」には、私たちの能力をプラスに押し上げたり、最適な行動に導く効果があるのではないでしょうか。

音と行動の関係

私たちは多くの音に囲まれて生活しています。例えば、スーパーでBGMが流れていますが、曲想はいつもテンポのよい楽しい曲です。そうすることで買い物が楽しくなり、スーパーの滞在時間も長くなるからです。買う側が楽しく、いろいろなものを買ってしまうのは、BGMの心理的な働きかけが影響している可能性があります。
また、会話においても言葉は音として耳に入ってきます。そしてネガティブな響きよりもポジティブな表現の方が受け入れやすいと言えます。「ジョギング」を例にとってみると、「走るのはきつい。つらい、しんどい」と表現すると気持ちが萎えますが、「走れば爽快感が味わえるし、ひとりで考える時間が出来る」と良いことを並べるとやってみようと思います。つまり、私たちは音(この場合「言葉」)が持つ意味から様々なことを想像して行動に移していると言えるのではないでしょうか。
あなたの上司は、とにかくポジティブな言葉が多く、やたらほめるので巻き込まれてしまう。
結局、うまくいくことが多いということはありませんか?
言葉と音と行動は密接に結びついていると私は考えています。

言葉と音だけの世界

1997年に作られた映画「ラヂオの時間」をご存知でしょうか。深夜、ライブでラジオドラマが放送される舞台裏を三谷幸喜さんがコメディーにしたもので、主演は唐沢寿明さん。ベルリン映画祭にも出品され審査員特別表彰を受けています。登場人物が無責任に発するコメントにより、予想もしない方向にストーリーが進んでいき、現実の世界とのつじつま合わせが笑いを誘います。また、見どころの一つに効果音があります。ラジオドラマは普通のスタジオで放送しているため、リアル感を出しくれるのが効果音です。実際に録音したものを出すのではなく「作り出す」のです。ザルに小豆を入れてゆっくりとゆすることでザザザーという波の音を、また、ヒューという花火の打ち上げは、笛に送り込む空気の量を調節して吹いています。このような演出が想像力をかき立ててくれます。
ラジオなテレビのように見ることが出来ないため、音や言葉や雰囲気を想像して楽しみます。では人間が何かを想像するとき、耳だけを使うでしょうか。もしにおいが分かればにおいをかぐでしょうし、口に入れることができそうなら味や舌触りも確かめるでしょう。つまり五官すべてを使って想像するのではないでしょうか。

便利な時代に感じること

それなのに、私たちは最近想像するのをめんどうに感じていることも多くあります。あまりに便利な時代になってしまったからです。私たちが子供の頃は、インターネットがありませんから知らないことは、調べたり、人に聞いたりしなければなりませんでした。図書館に行き、どの棚に行けばなぞが解けるのだろうか。想像して本を手に取っていた気がします。途中で関係のない本を開いてしまい、別の事を覚えたりもしました。一方、人に聞く場合も誰にどうきいたらよいか、だれが詳しいだろうか。その人に聞くにはどうしたらいいだろうかと、様々に考えていました。一足飛びに答えがわからないけれど、その過程がコミュニケーション上でもとても大切だったと思い出すのです。

想像力と五官を使った体験

今の時代ではすぐにネットで検索が可能です。効率的であるのは認めます。ただ考える過程で学んでいたことを得る機会が失われたということは、何かが欠落してしまうと考えることもできます。こどもの発達について長年研究されているお茶ノ水女子大学の内田伸子名誉教授は2012年のユニセフの講演で「想像力の発達は五官を使った体験の大切さ」と話しています。それから8年。コロナ禍により人との関わりが減り、スマホの短いメールのやり取りが当たり前の今では、想像力は育たないのではないかと懸念されます。チャットGPTなどの生成AIに頼ってしまったら想像力を衰えさせてしまうのではないか。将来的に大きな弊害をもたらすのでは?と心配になるのも無理からぬことかもしれません。先のことを想像して心配ばかりするのもナンセンスですが、インターネットが当たり前になり、電話もあまりしなくなった世の中で、今回は耳から入る情報に少し気を配ってみよう、音や言葉の表現とそこからの想像力は大事にしたいなというお話でした。

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